P10~11 福祉見てある記67 テーマ 韓国 国公立ガジェウル オリニジップの訪問 本研究所研究員    上原 真幸 (保育学・児童福祉)  韓国の「オリニジップ」は、日本の保育所にあたる施設である。オリニジップにおいて、就学前の子どもの保育・教育を行う専門職に「保育教師」がいる(幼稚園は幼稚園教師)。  2023年9月にソウル特別市西大門区にある国公立ガジェウルオリニジップを訪問した。訪問メンバーは、勅使千鶴(日本福祉大学名誉教授)、金珉呈(精華女子短期大学)、韓仁愛(和光大学)と執筆者の4名である。 <ガジェウルオリニジップの特徴>  ガジェウルオリニジップは、定員72名(2023年8月時点で園児66名)の国公立オリニジップである。西大門区総合保育支援センターの建物内に園があり、1階がガジェウルオリニジップ、2階が西大門区育児総合支援センター(地域の親子が自由に利用できるコミュニティースペースやおもちゃレンタルの実施、託児室)、3階が西大門区育児総合支援センター(調理体験室、相談室等)、4階の屋上は遊び場になっており、地域の親子もガジェウルオリニジップの子どもたちも利用することができる。  ガジェウルオリニジップの大きな特徴に、障碍児統合保育を実施し、特に、アトピー性皮膚炎の子どもを専門的に受け入れる指定園になっている点がある。全園児のうち30%の子どもがアトピー性皮膚炎を患っている。そのため職員として看護師の採用が許可されている、韓国国内でも珍しい園として位置付いている。  園舎の床材や腰板には檜、壁には珪藻土、棚等も全て自然に近い材料が用いられている。自動空気換気機能設備の設置、シックハウス症候群を防ぐ処理もなされており、各保育室に空気清浄機も設置されている。 <ガジェウルオリニジップの保育室>  保育室は、0歳児から3歳児までが1クラスずつ、4~5歳の異年齢クラスがある。それとは別に「木」のクラスがある。保育室の名前は全て自然にちなんだものが付けられている。 ●0歳児クラス(種組)  子ども6名/保育教師2名 ・壁面には子どもの目の高さに、子どもの家族の写真が掲示されている。乳児が家族から大切に思われていることをいつでも感じられるよう工夫されている ●1歳児クラス(芽組)  子ども12名/保育教師2名 ・子どもの荷物の場所や子どもが座る場所(床)には、子ども自身の顔写真が貼られており、目印となっている。 ●2歳児クラス(葉組)  子ども14名/保育教師2名 ・保育室から、すぐ隣に作られた砂場に出入りすることが出来る。砂場の隣は隣接する地域の公園であり、砂場の柵を開けると公園にもすぐ出ることができる。 ●3歳児クラス(花びら組)  子ども14名、保育教師2名、障碍のある子どもの支援をする補助保育教師1名 ・保育室の棚の下は窓になっており、保育室から外の景色がいつでも見える環境が作られている。 ・登園後、子どもたちは各自がその日に取り組みたい遊びを楽しむ。 ・訪問時は、チュソク(日本でいうお盆)が近い時期だったこともあり、チマチョゴリや伝統太鼓など、韓国文化に触れることができるコーナーが作られていた。 ●4~5歳児異年齢クラス(実組)  子ども20名(内3名が障碍児)/保育教師1名、特殊教育専門教師(就学前の障碍児について専門的に学んだ有資格者)1名 ・子どもを2グループに分け、保育室も2つに区切って過ごしている。クラスの隣に中庭がある。中庭ではトマト、キュウリ、サンチュなどを育て、韓国伝統の味噌も作る。 ●障碍児の個別対応ルーム(木組) ・アトピー性皮膚炎児に限らず障碍児の特別活動は、内容によっては木組の部屋で行う(普段は通常クラスで過ごす)。室内の一角にマットスペースが設けられ、檜製チップのボールプールも設置されている。障碍児はもちろん、集団の場が辛くなった子どもも休むことが出来る空間として木組がある。 ・アトピー性皮膚炎の子どもに対しては、看護師が毎日15分~20分程度のスキンケアをする。一人ひとりの子どもによってスキンケアに使用する薬が異なるため、園で管理している。0~1歳児は各クラスでスキンケアを行うが、2歳児以上は、この部屋のアトピー専用スペースに来てケアを行う。該当の子ども以外は専用スペースに入ることが出来ない。 ・クラスの奥のスペースは仕切りが付けられた空間がある。保育教師等の園職員が休憩したいときにも気兼ねなく休憩できるスペースである。 <訪問を経て>  ガジェウルオリニジップは、韓国国内でも注目される、障碍児保育及びアトピー性皮膚炎児の受け入れ指定園であると知り、訪問をおこなった。室内空間の環境整備はもちろん、障碍児の受け入れのために特殊教育専門教師が配置されるなど、丁寧な支援のための取り組みがなされていた。  また、ガジェウルオリニジップに限らず、韓国のオリニジップや幼稚園には、大なり小なり必ずと言っていいほど各保育室内の一角にロータイプのソファーやマットを置いた休息ペースが設けられている。子どもたちに対しても休憩を保障する保育環境が作られているように感じた。  現在韓国は「幼保統合」に向けて、保育制度が大きく変わろうとしている。施設機能の一元化はもちろんであるが、保育教師と幼稚園教師の資格統一化も課題の一つに挙げられ、討議が進められている。今後どのような形で「幼保統合」が進められるか、関心を持っておきたい。  ※本訪問は、JSPS科研費(23K01954 研究代表者:金 ミンジョン)の助成を受け実施した。